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・全部ねこです
・ねこみみとかしっぽとかではなく、まるごとねこ
・佐助くろねこ 幸村とらじま
・前に出した「とらねこ野」と同じシリーズ
・前回出会い編 今回はちょっと馴染んだ編
・残念なことに表紙の絵の幸村が完全にトラッキーくん
・管理人の画力ここに極まれり
・阪神優勝しますように(私情)
・ちなみにくろねこ佐助は前は灰色お師匠様に拾われてしろねこかすがと一緒に暮らしていましたが
・かすがが謙信様(たぶん白い龍かなんか)のところへお仕えしに行ってしまったので
・幸村が来るまでは広いおうちに一人暮らししてました
・慶次は佐助のお友達
・的な感じ
・なので別に前の読んでなくても大丈夫と思います
・巨大なパラレルにゃんにゃんBASARAでござる
>>>
佐助が怒った。
「え」
帰ってきて、巣穴の前の光景を見て、佐助はそう言った。
「……旦那、なにしてんの?」
その瞬間まで、幸村はご機嫌だった。
もう雨の季節も半分過ぎた。今日は朝から晴れの日で、佐助は行ってくるねと出掛けてしまった。きっと慶次と二人でおもしろいことをしているのだ。連れて行ってとねだったのに、佐助はてきとうにしっぽを振って、そのうちね、と言った。佐助はそればっかりだ。お昼には幸村はもうすっかり退屈してしまって、ころころ転がって巣穴から出てしまった。
「うー!」
ひまでござる、と空の色を見てまたころころと戻る。
そうやってころころしているうちに、幸村は転がるのがものすごくうまくなった。今ならきっと石ころよりも速いと思う。しかもかっこいい転がり方まで編み出した。壁の方に足を向けてきゅっと縮まる。そして思い切り壁を蹴って飛び出して、一気に外まで転がった後、ここからが重要だ。
「真田源二郎幸村──見参!」
とうっと思い切り立ち上がる。
「みなぎるァ!」
しっぽはぴんとして、耳も真ん前にぴんとする。
そのまま吼えると、ものすごくかっこいいと思う。
幸村は一日そればかり練習した。
でも、あんまり練習しすぎて巣穴の周りの草がすっかりぺったんこになってしまって、気がついた幸村はちょっとどきどきした。
「く、草殿……」
ぺったんこになってしまった草は、幸村ががんばって鼻先でくんくんしてもぺったんこのままだった。
「お、怒られるでござる……」
佐助は夕方草の上でのんびりするのが好きなのだ。ひんやりして涼しいよと幸村も隣でごろごろする。おなかとか足の後ろとか、昼間遊んでいて汚れたところを佐助がきれいにしてくれて、幸村もちょっと佐助の毛づくろいを手伝ったりする。でもほんとうは佐助のしっぽをかじって遊んでいるだけなのは秘密だ。それにしっぽも好きだけれど、佐助の足の裏をなめたり、首の後ろや耳の横をかじるのもすごく好きだ。
幸村はしましまの前足をつっぱって、ぶるぶるっと震えた。
佐助は、真っ黒だ。
佐助は耳もしっぽも真っ黒で、目だけきらきらして緑色をしている。幸村の家族はみんな同じ黒と金のしま模様なのに、佐助は全部真っ黒でどこにもしま模様がない。佐助も冬になったらしま模様になるのだろうかと思ったら、そんなわけないでしょといやな顔をされた。
「なんと!」
驚いた。佐助は一生真っ黒らしい。しま模様の毛皮は冬ものすごくあたたかいのに、と幸村はしょんぼりした。
「いいでしょ別に。おれさまが白かろうと黒かろうと旦那に迷惑かけるわけじゃないでしょ」
それきり佐助は不機嫌になってしまって、その日は夜まで一日木の上に登って幸村のことに構ってくれなかった。悲しくなって佐助のいる木の根っこをがりがりしてみたけれど、佐助はそこにいたら鳶にみっかって食べられちゃうよと言うだけで、全然降りてきてくれなかった。
「どっか藪の下にでももぐってれば」
「いじわるでござる!」
木の上のくろねこは、緑の目をちょっと細めて、知んない、とつぶやいて幸村に背を向けた。
「さすけえ!」
うわあんと泣いて、幸村はそのまま遊びにも行かずに根っこの隙間に小さくなって一日を過ごした。時々佐助が降りてきてくれるんじゃないかと思って枝の上を見上げて見たけれど、佐助はまるでいないふりで葉っぱの間にいる。おかげで幸村は佐助のことが少しきらいになった。
「旦那」
でも、夕暗がりに日の落ちる頃、おうち帰ろ、と木から音もなく幸村の横に下りて来て、ごめんと鼻をなめてくれた。
「佐助……」
「うん」
なめらかな毛並みが幸村の首筋に触れる。
「帰ろ」
しましまに黒い体をぎゅうっとくっつけて、佐助がしっぽを揺らす。幸村よりずっと長くて、きれいなしっぽだ。
「さすけえ」
そのしっぽを見ていたら、幸村は体中が涙でいっぱいになってしまった。
ごめんて言おうと思った。
佐助にごめんって言おうと思ったのだ。
「ごめんね」
なのに、佐助がそう言ってしまうから、幸村は言い損ねてしまった。
「……一緒に帰るでござる」
泣かないように、やっぱり佐助の背中に顔をぎゅっとして、幸村は佐助にごめんと言えなかった。
くっついたまま、鼻先がひとりでにきゅんきゅんする。体が涙でいっぱいになる。でも、男は泣いてはいけないのだ。泣いたのがみつかったら、幸村は兄にからかわれて恥ずかしいことをされてしまう。
「……旦那、泣いてんの?」
なのに、佐助がそう言うから、幸村は顔をうずめたまま、顔をくしゃくしゃにした。
「泣いてないでござる!」
「……はいはい」
うわあん、と、背中でまんまるになった幸村をしっぽで降ろして、佐助はしょうがないなあと巣穴へ帰った。幸村をくわえた足取りはいつもよりちょっとひょろひょろしていて、幸村は草の先っぽでおしりがくすぐったかった。
「ほら、旦那、見なよ。あじさいきれいだよ」
笹とつつじの茂みを抜けて、佐助と幸村の巣穴が見える。
「おれ、あの色好きなんだ」
巣穴の入り口をきれいな水色が縁取って光る。
「きれいでしょ」
あじさいの水色を見つめて、佐助は目を細める。
きれいな水色のあじさい。
昔、幸村が佐助に拾われる前、佐助はきれいなしろねこと一緒に暮らしていて、あの花は佐助がその子にあげたものなのだ。巣穴の入り口に置いて、毎日大事に水をあげているうちに、根っこが出て大きくなったらしい。水色のきれいな花。やわらかい葉っぱは、しずくをなめると甘くておいしい。
水色の花。
そうだ、このあじさいは佐助のお気に入りなのだ。
「む!」
思いついたでござる、としっぽをぴんとして、幸村はぴょんぴょんとまあるい花へと飛び跳ねた。
・なので他愛ないところを抜き出しました
・サンプルは全年齢
・本はR−18
・サークルはゆきさ
・さわりっこ→きもちいー→当然のっかる真田
・さわりっこ→きもちいー→そんなんまったく聞いてないですけど!? 佐助
・佐助に下になる予定はない
・真田にもない
・やー、ひじょうに残念です
・のっかり
・的な話
・エロ部分は現年齢くらい
・それ以外はちん毛生えてないくらいとか
・が相変わらずてきとうに交差します
・あとカップリングとかには関係ないけど、世話役の女中さち一家を捏造
・てきとうに確認してください
・18歳以下には売りません買えません触れません
・よろしくまんじゅう
>>>
夕方、ふらふらと佐助が出かけていく。
「どこへ行くのだ」
庭を横切る影に問う。
「えー」
いいとこー、とだけ答えて、影は裏木戸をくぐる。
「旦那はいい子でお留守番しててくださーい」
白い手をひらひらと振る。
「いってきまーす」
忍のしぐさに、なんとなく小馬鹿にした雰囲気を感じて、幸村はむかっ腹を立てた。
「なにをう」
何がいい子だ。帯に挟んだ根付が光っている。あれは佐助の気に入りの水晶だ。あんなのを着けて行くなんて、どう考えてもよくない匂いがする。
「おまえ、こっそりいかがわしいことをしに行くのだな!」
「なっ」
「知っているぞ! そんな感じがする!」
縁側から叫ぶと、一枚の墨塗りのようになってしまった忍が言い返した。
「誰がいかがわしいっての! おれさまほど清らかな忍がいるかよ! 旦那の破廉恥! ばか! 破廉恥って言う方が破廉恥! どこに行こうとおれさまの勝手でしょ! ばか!」
「さちに言いつけるからな!」
夕闇の中で、佐助がぶううっと膨れ上がった。
「破廉恥破廉恥うるせえな。ばか! んなもんちん毛生えてから言え!」
「なっ」
「ばか!」
ばかあほと言いたい放題に言って、佐助は築地塀の向こうからひょいと上半身を覗かせた。にやあっと白目がいやな色に光った。
「あんたこの前馬方のやつと言い合いしてたでしょ」
「な、なぜ知っている……」
「おれさま何でも知ってるもん」
腕組みの上で忍の顔が笑う。人の背より高いところに上半身だけ見せて、佐助はなにか夕方の化け物のようだ。
「そん時おれさま聞いたんだけどさーあ」
いやな予感がした。
「――あんた、生えてんだって?」
「わーっ!」
幸村は叫んだ。
「おれさま昨日あんたが風呂上がりにぶらぶらしてんの見たんだけどさーあ」
「わーっ!」
全然つるつるだったよねえ、と言う声に、幸村は手近にあった下駄を投げた。
「佐助ええええ、黙れっ!」
「つるつるだった」
つるつる、と笑って、忍は顔を引っ込めた。
「安心して安心して。おれさま誰かに聞かれたらちょう言っといたげるね。真田の旦那は生えてるらしいけどちょうつるつるだって」
「言うなっ」
「恥ずかしー。旦那、見栄張っちゃって恥ずかしー」
「破廉恥だぞ!」
「そうねー、恥ずかしー、旦那のおちんちんつるつるー、恥ずかしー、旦那のおちんちん破廉恥ー」
「黙れっ」
木戸の陰から覗くのに、思い切り履物を投げつける。
「忍がそんなもんに当たるかよ」
「佐助っ」
下駄は思い切り柱にぶつかって跳ね返った。
「おれは破廉恥ではないっ」
「そうね、単にちんこつるつるなだけだもんね。別に恥ずかしくねえよ」
「う、う、う」
頭がくらくらする。
それを見ながら、佐助は猫なで声を出した。
「旦那のおちんちんかわいいねえ」
「お、お、お、おまえにおれの何がわかる!」
「見た目とか?」
きょとんと首をかしげて、佐助はいじめっこの顔で笑った。
「まあ、みんなもう生えてっけど。旦那遅いね」
「黙れえええええ」
幸村は真っ赤になって手当たり次第に物を投げた。
「もー、縁側下りられなくなっちゃうじゃん。ちょっと、後でちゃんと拾っといてよ。おれさま知んないからね」
ひょいとからくりのように首を引っ込めて、佐助はちらちら手だけ振ってみせた。
「じゃあねー」
「むううううう」
そのまま遠ざかる気配に、不覚、と歯噛みしながら、幸村はその夜なんとなく辺りを丁寧に洗って寝た。
「……む」
もちろんそんなことで突然ぼうぼうになれるわけもなく、相変わらずのまま三日ほど過ごして、ようやく幸村は己の忍が帰ってきていないのに気がついた。
・「雪に眠る」(R-18)
・「積雪短篇」
・「十の島」(R-18)
サンプルは各項目で見てくださーい。
本文とは別にサイトに入れてないやつの拍手再録のおまけ本がついてました。(終了)
別冊おまけは26ページ。
・「アキナマヤ」(佐助唐突に女体化)
・「トリナイエ」(両方唐突に女体化)
・「ケイミワイ」(真田しっぽ生える)
数に限りがあります。
内容的に苦手な人は断ってください。
よろしくまんじゅう!
・みんなで海に行くよ!
・夏に出そうとしていたのでふつうに夏
・旅のお宿は北条のじいちゃん家
・北条家の宝 風魔小太郎在中
・そしてオリジナルキャラクターじいちゃんの先祖
・主な舞台はバス、トラック、じいちゃん家
>>>
夏休みが来る。
幸せなシーズン。
光る肌、かわいいおしり、水着は絶対ビキニだと慶次は主張する。
「しかも首の後ろでひも結ぶのあるじゃん! あれ絶対最強!」
「あと腰の横んとこでひも結ぶやつな……。あれ女の水着の下ってなんて言うんだ? パンツ? ひもパンかあれ」
「ひ、ひもパン……?」
「あー! わかるー!」
あれいいよねー、と慶次が叫ぶ。
「ときめく! ときめく! たとえあれがほんものじゃなくてもね! ちょうときめく!」
「……ほんもの?」
幸村がうめく。
「旦那、女の子の水着ってわかる?」
ソファに寝転がって、佐助は幸村の背中を見る。
「ばかにするなっ」
幸村は最近床にござを敷いた上がお気に入りだ。ソファは夏の間佐助にくれるらしい。
「あ、そっか、幸村、長野海ないから水着見たことないんだ?」
「あー、夏の海は破廉恥だからな……。行ったことねえのもしょうがねえ」
幸村が震えている。
「慶次殿! 元親殿! 日本の屋根たる信州長野をばかにするとそれがし許さぬぞ!」
「だってよー」
元親はだるそうにうちわを動かす。
「海ねえんだろ」
信じらんねえ、と元親はうなった。
「おめえ、夏海行かねえで一体何して暮らすんだよ。暑ィわ腹減るわ、ひまだわむさくるしいわ、海がなかったらおれもうとっくに死んでたな。実家くせえんだよ。夏」
「あー、ちかちゃん家、男ばっかだもんね……」
「誰がちかちゃんだ。おまえはさっさと実家帰れニート」
慶次の椅子の脚を蹴る。
「ひどーい!」
「うっせえバカ。おまえ休みの度おれん家来んのやめろ。ていうかともかくよ、夏は海だぜ幸村」
む、と茶色い頭がござの上で姿勢を正す。
「山もまたいいものでござるぞ、元親殿。高原、牛乳、チーズにヨーグルト、川釣りに野鳥観察、飯盒炊爨、キャンプもできるでござる」
「わかってるわかってる。だけどな」
幸村の肩を抱く。
「考えてみろ幸村。夏のあっつい時期にだ。男と女が遊びに行くわけだ。もう太陽なんかカンカンでよ、元就が飛び跳ねて喜ぶようなむちゃ晴れなわけよ。わかっか?」
「む」
扇風機の風を浴びながら、佐助も飛び跳ねる元就を想像してみる。
「もう暑いわけよ。日向にいようが日陰にいようが関係ねえ。日傘も日焼け止めももうパーよ、パー。男どもは半袖焼け、女どもはキャーキャーキャーキャーうっせえわけよ。えー、焼けんのやだー、とかおまえ外に遊びに来た先で言われてみろ。どんだけテンション下がるかわかるか、ああ? んなもんおまえ一生車入っとけっつー話んなるだろ。何しに来てんだっつーよ」
「夏は日焼けするのが当たり前でござるからな」
「だろ?」
これが山の場合だ、と元親の声を佐助はいささか恣意的なものとして聞いた。壁際で扇風機がぷるぷるしている。
「でもよ、幸村。海の場合は違う」
ぐっと力がこもった。
「海は焼けに行くんだ」
なぜか慶次が力強く頷く。
「海に日陰なんかねえ。青い海、白い砂、照り返す太陽、どこもかしこも日輪だらけだ」
「それは暑そうでござる」
「だろ? 海は暑いっつーのは常識よ、最初っからわかってんだよ。だから女どもも多少焼けたところでぐちゃぐちゃ言わねえ。いや、むしろあれだな、慶次」
「日焼け止め」
何か二人の間で通じ合うものがあったらしい。
「日焼け止め?」
了解できていないのは幸村だけだ。
「もー、ユッキーってばーあ」
「誰がユッキーだ」
慶次は何かお兄さんぶりたいらしい。つれなく払われながらもめげない。こいつ絶対末っ子だな、と佐助はあくびをした。末っ子だか一人っ子だかしらないけれど、妙によその子をかわいがりたがるタイプだ。
「海の定番だろ、日焼け止め」
な、と話を振られて、佐助は面倒になって寝たふりをした。
「あ、てめ」
背中を小突かれる。それがなんとなく楽しくて、佐助はちょっと笑った。
「それで日焼け止めの何が定番なのでござる?」
長野の女の子は色白だもんなあ、と佐助は考える。新潟とか秋田とかもそうだって言うけど、なんだか雪国の子は日焼けなんかしない気がする。ていうかそもそも農協に布付きの麦わら帽子は売っていても、日焼け止めはないような気もする。なんだかよくわからないが、幸村の実家の辺りの農協は、気合だ! の一言で大抵のことを片付けてしまう。おかげさまで病院がなくても平気だとか言っているらしいが、それはそれでどうなのかな、と佐助は勝手に心配する。ともかく、そんな土地にまあ、日焼け止めはないだろう。
その間にも、慶次と元親の二人は、幸村に海と水着と日焼け止めのロマンをとうとうと幸村に言って聞かせている。
「こうさ、海で泳いだりすると日焼け止めが落ちちゃうわけ!」
「そうそうそう、そんでよ、やっぱ背中とか一人じゃうまく塗れねえだろ?」
「そうそう、むらになっちゃったりしてもだめだしね! きれいに塗るには誰か手伝ってあげなきゃだめなわけ!」
「ていうかあたし一人じゃ塗れない的なな!」
「あー! 塗れない的なね!」
「髪の毛とかもちょっと乾きかけでぱさっとしててよ、肩んとことか赤くなってんだよ」
「もう焼けちゃったよー、みたいなね!」
「そんであとになんないようにしてよとか言ってよ、水着のひもとか解くんだよ!」
「だめー! ちかちゃんだめええええ! 悪いことしちゃだめえええええ!」
「ちっげえよ、ちゃんと前は押さえてんだよ!」
「見ちゃだめよ! 見ちゃだめよかー! うわああああ、ちょうときめくー!」
「かー、やべえ、おれまじ速攻海行きてえ」
「わかるー! ちかちゃん、おれそれまじわかる!」
「だろー!」
二人でじたばたしている。
「沖縄とかじゃなくていいんだよ。なんかその辺のちょっとしみったれたとこでよ、周り湾みてえになっててよ、両側からこうちょっと岬みてえなのがせり出してて、その奥にこう、水平線が見えてよ、そこに時々船が通るんだわ、よくねえ」
「ちょういいー!」
「――そこでだ幸村!」
元親が右手を掴む。
「おまえが塗るんだ」
こくりと慶次が頷いた。
「この手で塗るんだ」
幸村はぽかんとしている。
「……なぜおれが」
「女の子が困ってるんだよ。しかもほかでもない、水着の女の子が」
「塗ってやれ幸村」
「そうだよ、塗ってあげなきゃ」
「そんな――」
佐助、とこんな時だけ助けを求められても困る。佐助はきゅっとまるくなってしらんぷりをした。
「おれさま知んなーい」
「さすけえっ」
「だっておれさまどうせ塗るなら日焼け止めよりオイルの方が好きだもん」
「オイル」
新しい選択肢に幸村は混乱しているらしい。
「オイル オイルとは何だ」
「あー、いいねー! オイルもちょういい!」
「おいおい、佐助おめえ渋いな」
「いいねいいね、真夏の夢だね! こう、ちょっと焼けて火照った肌にさ、乾いた砂粒とかがついててさ、オイルしたげる前に払ったげるんだよね。あれー、どしたの、こんなとこも砂ついちゃってるよー、みたいな!」
「こんなとこってどこだよ!」
「そんなのおれ言えないです!」
「言えないようなとこについてんのかよ! 慶次おまえどこにオイル垂らすつもりだよ!」
「キャー! ちかちゃん破廉恥!」
慶次が女子高生みたいな声を上げた。幸村が顔をしかめる。幸村は慶次のはしゃいだ声が苦手だ。
「ともかく幸村くん、そんな感じです!」
がんばって、ときらきらした目で幸村の手を取る。
「な、なにをがんばるのだ……」
幸村は完全にひいている。
「これは決して破廉恥行為ではありません」
「な」
「おれたちは何にも悪くないです。ただ純粋に女の子の真っ白な柔肌を守ってあげたい一心の勇気ある行動です」
佐助はごろりと寝返りを打った。暑い。
「けいちゃんあんたよっく言うよねー。んなわけないじゃん。下心まる出しじゃん」
ぺしっと慶次のうちわが佐助の額を叩く。
「佐助うるさい。あんたかすがちゃんいるじゃん」
「かすが殿」
「もう、慶次うっさい。んなの関係ねーよ。あいつがそんなんさしてくれるわけないじゃん」
「したいんでしょ」
「そりゃしてーよ」
「破廉恥」
慶次が笑った。
「幸村幸村、佐助あいつ破廉恥だよ」
「ちょっと慶次!」
思わず立ち上がった。
「旦那に変なこと吹き込むのやめてくれる」
「変なことじゃないもーん」
こういう時の慶次はむかつく。
「変なことじゃなきゃなんなんだよ」
ばか、とTシャツの肩を蹴る。
「痛いー。佐助のばかー。なんだよ、おれたち将来幸村がかわいい子に、ちょっとあなたわたくしに日焼け止めを塗ってくださらない? とか言われても困らないように教えてあげてるだけなのにさー」
「んなもん七百年生きてても言われねえよ」
「わっかんないじゃん。今年がその七百一年目かもよ」
「いいの。大体長野に海ないの。旦那はそんな破廉恥なとこ行きません」
「わっかんねえぞー。人生何があるかわかんねえからな」
「わかりますー。旦那いいこだもん」
ちぇっ、と元親が舌打ちをする。
「……むっつりすけべのくせによ」
ひどい。
元親も慶次もひどい。
そりゃ佐助だってしたいことはいっぱいある。けど、でも、がんばってるのに、我慢してるのに、なんだ、それは。
「おれさまむっつりじゃねーよ!」
佐助は叫んだ。
「おれだって塗りてーよ! すまない少し手伝ってくれないかとか言われてーよ! でもそんなん妄想百回したって起こりっこねーよ、まじねーよ!」
だんだん悲しくなってきた。
「おれだって海行ってちょうラブラブとかしてえよバカー!」
そうか、と元親が唸った。
「まじねえか……」
それは悲しいな、と幸村にまで哀れみの視線で見られて、佐助は叫んだ。
「滋賀県、海ねえよー!」
・耳とかしっぽどうこうではなく、まるごとねこ
・の出会い編
・とらじまのさなだくんはくろねこのさるとびくんに拾われました
・という話
・かすが(しろねこ)とけいじ(なんか柄つき)が出てきます
・捏造100
・さるとびくんはかすがちゃんが好き
・だったのにすでにかすがちゃんはけんしんさま(白い竜)のところへ行っちゃいました
・うわあん、おれさまさびしくないもん
・とかいうてきとうな話
>>>
目の中が黒い。
佐助が巣穴に連れてきたとら柄の子は、まだうっうっと泣いていて、そのくせ佐助のしっぽにかじりついて離れない。
「ちょっと……。おれさままだ濡れてるからさ……、あんまくっつくとあんたまで湿るんだけど……」
「うっ」
しっぽの端を思い切りくわえたまま、とらじまの子供はまた涙ぐんだ。
「おやかたさまあ……」
じんわりと目の縁が濡れる。
「ちょ、痛い痛い」
ぎゅううと小さな歯が佐助のしっぽに食い込む。涙をこらえるのにがんばっているのはわかったが、そのために噛みちぎられてはたまらない。しっぽは佐助の自慢なのだ。
「ちょっと、旦那」
佐助をやつでのおばけだと言ったくせに、声を掛けてやったら、安心したのかその場でぺっちゃんこになってしまった。しかも迷子だったらしい。ここまで、泣いたら負けだとばかりにがんばっていたのが、佐助を見てだめになってしまったらしかった。目の中のまるいのが大きくなったまま戻らない。おかげで子供は真っ黒な目のまま佐助のしっぽに食いついている。
「痛い痛い」
前足でおでこを押すと、びっくりするくらいふわふわだった。
これが子供の手触りかと、佐助は少し驚いた。ちょっとどきどきする。かわいい。
「うう」
案外おとなしく口を離した子供は、耳なんかすっかり倒れて、なくなってしまったみたいになっている。まだひんひん泣いている口は開いたままで、小さい牙が並んでいるのが見えた。すごく小さい。先っちょの透き通ったいときりを見ながら、佐助はおなか空いてるのかな、と考えた。
「旦那、おなか減ってるの?」
ね、とぐしょぐしょの顔を覗き込む。
「迷子の間ってなんか食べた?」
全身きれいなとらじまで、足の先まで柄が入っている。
「ね」
ちょん、と小さな手を触って、佐助はこねこを見上げる。
「泣いてちゃわかんないよ」
子供は、ぐす、と鼻をすすりながら、がまんするみたいに言った。
「たべてない……」
「食べてないんだ」
でもおなかは空いてないでござる、と言う子供は、たぶんちょっとうそをついている。だって、子供ならもっとまあるいおなかをしてるはずなのに、この子はすっかりぺったんこになってしまっている。別にいいけど、と佐助は子供の頭を触った。ふかふかする。
「おれさまごはんおいしいのいっぱい持ってるけど、食べる?」
こねこの目に映る佐助は、目だけ緑色で、やっぱり真っ黒だった。
こねこは、ぱちんと瞬きをした。
「ひとさまの大事な食べものをいただくわけにはいかぬ」
きゅっと口を閉じて言う。
「おうちに入れてくれてありがとうでござる。でも、世の中はきびしいのでござる」
泣いたあとをこすって、小さいとらねこは頭を下げた。
「なので、ありがとうでござる」
「いやいや」
だっておなか鳴ってるじゃん、と言うのは、なんだかかわいそうな気がして、佐助はしっぽを揺らして考えた。
「あのさ」
ぐす、とこねこは鼻を鳴らす。
「もしさ、あんたがさ、いやじゃなければさ、一緒に食べようよ。おれさまもおなか減ったし、もしあんたがおれみたいなののごはんいやだって言うなら、誰かにもらってきてあげるよ」
たぶん、慶次なら何か食べられるものを持っているだろう。慶次は狩りもうまいし、真っ黒でも佐助のことをいやがらない。時々佐助の巣穴にまたたびを投げ込んだりするけど、慶次は佐助の友達だ。
「どうしよっか」
とらねこの前で首を傾げる。
外はまだ雨だ。
佐助はしっぽを揺らした。
「せみとね、ちょうちょとね、あるけど、どっちがいい?」
巣穴の端を雨だれが伝う。細く下がったしだの根っこが糸みたいに見える。
ふかふかとお皿代わりのこけを押さえて、佐助はとらじまの子に聞く。
「すずめのしっぽもあるよ」
ぴょん、と耳が立った。
「すずめ!」
ぴょんぴょんと揺れる。
「しっぽだけどね」
あげる、と笑いながら、佐助はこの子いいな、と思った。