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・R-18
・ゆきさ
・佐助が一回死にかけますが、復活しました
・やったー!
・というほどさわやかではない
・地味な話
・よくかじる
・ので「ひとくい主従」と呼んでいた
・が別にカニバリズムではない
・ひじょうに地味
・この話ではさなだに兄弟はいない
・そして昌幸(五郎)、信玄(太郎)、勝頼(四郎)前提でよろしくどうぞ
・一カ所昌幸がとうとつにみんなを通称呼び
・佐助がかわいそう
・そんな感じでよろしくどうぞ
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いつの間にか、主が人を食うものになっていた。
おや、と思っているうちに、気がつけば自分もよく似たものになっていた。
雪がぱらぱらと降るのに、腹ばかりが減る。
おや、おや、と思いながら、日を過ごした。ぼんやりと、眠い。
「佐助」
眠るのか、と主の指が髪を梳く。うん、と主の横に丸まったまま、目を閉じる。
手あぶりの灰の上で、炭の焼ける音がする。首の裏を流れる血が照らされて熱くなる。肩から腕へ、赤い血が通う。体がぬくくなる。気持ちいい、と言葉にもできずに、佐助は主に顔を押し付ける。
くう、と喉が鳴って、動物のようだな、と主が笑った。その声を遠くに聞く。
まぶたも上がらない。息すら止まりそうなほど、埋もれていく。
「佐助」
唇に触れた手。その奥に血潮の流れているのがわかる。
おいしそう、と思って舌を出した。
うつうつと眠りながら、これを食う。
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昔、あれが嫌いだった。
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昔、あれが嫌いだった。
「ねえねえ」
むくげの忍は、遊び相手のつもりでもいるのか、妙ににこにこと幸村のそばに寄ってくる。一体何をどう承知したのか、自分に構うのも仕事のうちだと思っているらしかった。
これあげる、と差し出してくる、それを見る度に、幸村は、こいつは頭のからくりが外れているのではないかと、真剣に思った。
「きれいでしょ」
ね、と忍の荒れた手の上で青いびいどろの珠が光っていた。
「よろこぶかなあと思って、おれさまみつけてきたの」
あげる、と忍は無邪気に言う。
「あのね、これね、氷じゃないんだよ。夏でも水につけてもとけないの。すごくめずらしいんだよ。なんか、名前なんていうのか忘れたけど、おれこれみっけてね」
あのね、あのね、と話し続ける忍に、おまえ、それ、盗んだのだろうと、言えなかった。
隠した方の左手が腫れている。黒く色が変わるほど傷めた指。曲がらないのだろうな、と思った。突き指と言うにはひどすぎる。顔にも青じみが残っていて、目の端に血が溜まっていた。
「痛いか」
そう言ってやれば、喜ぶのを知っている。
「ううん」
自分よりも背丈はあったけれども、骨の浮いた薄っぺらい体をしていた。
「おれさますごい忍だから、全然平気」
痛くないよ、と忍の目がぬるむ。
「平気」
何がうれしいのだと、幸村は忍を憎んだ。
「これ、あげる」
無言で受け取った青い珠は、ぼんやりと重く、冷たかった。
こんなものを持って、逃げてきたのか。
むくげの子。
見掛けるようになって半年ほど経つ。周り中で一番若い忍だった。
一戦幾らの渡りの戦忍だ。一生買いなら、初めから決まった主につく。いい忍ほどそうなのだと聞いていたから、幸村はこれに自分の名も言わさなかった。
「きれい?」
じきに死ぬと思っていた。
「……ああ」
頷いた手の中で、青い珠がぬくくなる。ゆっくりと熱くなるびいどろの珠。
「あのね」
おれね、とぽつぽつと話す忍を、幸村は哀れと思う。
忍は、連れて行かれた先から戻る度、何かしら小さなものを盗んで来ては、幸村に渡したがった。
「ばか」
やめろと言えばそれで終わる。姿など見たくないと言えば、それきりどこかへ消えてしまうだろうことも知っている。そも、主の子に忍の盗んだものを渡すなど、他に知れれば、これはきっとひどい折檻を受ける。
傷だらけの体を、誰も憐れまない。
「あのね、この前ね」
そう言って話すのは、沼にいるという大きな魚のことだったり、どこかにあるというおかしな岩や山の形、なっているのを見たという野菜や果物の話、幸村には何も珍しくなかった。
――おまえ、他に口を利く者がおらぬのか。
言えずにいつも口をつぐんだ。
これはきっと、あまり幸村のことを人間だと思っていない。何か自分より小さな生き物の類だとでも思っているのだろう。何もわからぬものだと思って、ものをやってみたり、話してみたりしてよろこんでいる。
ばかだ。
「おまえ戦忍か」
聞いたその言葉で、忍の気配が変わる。表情の抜けた顔が紙のように白い。
「――なに」
笑った。
まさか気付かれていないとでも思ったか。まともなふりをするには愚かに過ぎる。
「ばかめ」
そう思って、笑った。
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目を突くような清浄に、逃げるように忍の首を抱く。赤いむくげがまぶたに映る。
せつない、と思った。
腕の中で眠っている。ぬくい肌で寝息を立てる、己の忍をせつないと思う。
これがいつか目覚めぬ日が来る。
黙って、眠る頬を撫でた。これは知らぬのだと、幸村は思う。知らぬまま、わからぬまま、幸村が、これを自分ではいけぬようにしてやった。
知れば幸村の前で泣き叫んでみせるだろうか。
ただ、悲しかったのだと、幸村は誰に言うこともできずに、今日まで来た。
射し込む冬の光に、雪の粉が映る。
ぬくい肌をした忍に唇を寄せる。
もうこの程度では目が覚めぬのか。
そう思うと、光射す中、冷えた肌がじわりと嘆いた。
あの日、これを、目の前で死なせた。
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唐紙の箱にびいどろの珠を仕舞う。
松葉柄の箱は、忍の寄越したものでいっぱいになり始めていた。
烏の巣がこんな感じだな、と幸村は思う。
空になった巣の中に、烏の宝物が残っている。
そんな風なのを、思った。
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