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・の大晦日
・がてきとうに展開される
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もう鍋を煮るのにも飽きた。
マンガは読んだし、テレビは疲れたし、パソコンは慶次がいらんことばっかりしようとするから押し入れに封印した。課題はする気にもなれない。
「もう慶ちゃん帰れば」
んん、と雑炊の残りをさらえていた慶次が唸る。
「やだ」
「いや、やだじゃないでしょ。帰れって」
「やだ」
レンゲで空の鍋をかき回している。
「うるっさい。がらがらしたらテフロン剥がれるでしょ」
「けち」
「けちじゃない」
ワンルームのこたつは小さい。
いつもならそこに佐助と幸村が入ってぴったりなのに、慶次が入ったせいで、幸村がはみ出している。
足だけふとんに入って、壁に頭をつっかえたまま、幸村はさっきから微妙にうなされている。
なぜか幸村は慶次が来るとうなされる。
「ほら、旦那うなされてんじゃん」
「えー、それおれのせいー?」
ビールはもうない。それをひっくり返して、慶次は空の缶を机の端に積み上げる。
「慶ちゃんがなんかやなオーラ出してんじゃない」
「え、幸村って霊能力者なの」
「んなわけないじゃん」
知んないけど、と口をつけた自分のビールも空になっていた。
「ちょ、冷蔵庫見てくんない」
「まだあんの?」
「ないと思うけど」
「ないのかよー!」
大げさに仰け反って、妙に素早く腹筋で戻る。
「……慶ちゃんマッチョだよね」
ちょっと自分の袖をめくってみる。
昨日白菜三つ持つのが重たかった。
一昨日は米とビールを一緒に持つのがちょっと重たくって、ごはん食べさしてあげるとそそのかして、幸村に半分持たせた。
黙って拳を握って、じっと見てみる。
一応筋は出る。溝も。
じっと慶次の背中を見た。
「なんか言ったー?」
腹這いのまま冷蔵庫に顔を突っ込んで、慶次が足をばたばたさせる。
「ちょ、部屋壊れる部屋」
「佐助ー! 冷蔵庫ビールないよー!」
「だからってアイス取らないでよっ」
「ミルクバーいいよねー」
銀紙をはがす。
「佐助もいる?」
「いる」
「なになに、佐助も食べるんじゃん」
「ていうかおれのです」
「はいはい」
テレビをつける。マッチョが映っていた。すぐ消した。
「もー、やる気ねー」
カーペットにそっくり返る。
「旦那邪魔ー」
うつぶせのままの肩を押す。パーカーからはみ出した腹が、ぎゅう、と鳴った。
「……腹減ってんのかな」
「うっそ」
ぎゅううと鳴った。
「幸村何食べたっけ。結構食べたよね」
「米とか全部食べたよ、旦那。うどんもラーメンも全部旦那じゃん。もやしとか食べてたけど」
「はんぺんおれ食べたしね」
「あんた餅も食ったでしょ。旦那自分の分ちょう探してたよ」
「佐助あげばっか食べてたじゃん」
「……いいじゃん豆製品」
くう、と幸村が鳴いた。
「なになに、佐助イソフラボンとか気にする派?」
「どうでもいいし」
ほんとすることない、と携帯をいじる。
「なんでなんで。コンドロイチンとかイソフラボンとかなんか楽しそうじゃん。未来っぽくね?」
「……あんたコラーゲンとか好きだよね」
「キューティクルも好き」
「それ食いもんじゃないし」
「マルチファイバーとか名前が既にかっこいい」
「オットピンでも買ってくれば」
「それ名前ださい」
きゅう、と幸村が鳴いた。
「なになに」
慶次が急にテンションを上げた。
「オットピン? オットピン?」
「連呼すんな」
「オットピン」
「まだ言うかあ」
悪ふざけの口を掴む。瞬間、幸村が顔を上げた。
「お館様ああっ」
びっくりした。そのまま壁に向かって吠えている。隣が留守でよかったと心から思った。
「お館様ああああああ」
壁に向かってきゅんきゅんきゅんきゅん鳴いている。
「この幸村、一刻も早くお館様にお会いしとうござるうううう」
「なになに? ご愛用者? 思い出の品?」
「けーいーじーいいい……」
あれって効くのかなあ、と真剣に振り返った顔に、佐助は幸村の靴下を投げつけた。