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・全部ねこです
・ねこみみとかしっぽとかではなく、まるごとねこ
・佐助くろねこ 幸村とらじま
・前に出した「とらねこ野」と同じシリーズ
・前回出会い編 今回はちょっと馴染んだ編
・残念なことに表紙の絵の幸村が完全にトラッキーくん
・管理人の画力ここに極まれり
・阪神優勝しますように(私情)
・ちなみにくろねこ佐助は前は灰色お師匠様に拾われてしろねこかすがと一緒に暮らしていましたが
・かすがが謙信様(たぶん白い龍かなんか)のところへお仕えしに行ってしまったので
・幸村が来るまでは広いおうちに一人暮らししてました
・慶次は佐助のお友達
・的な感じ
・なので別に前の読んでなくても大丈夫と思います
・巨大なパラレルにゃんにゃんBASARAでござる
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佐助が怒った。
「え」
帰ってきて、巣穴の前の光景を見て、佐助はそう言った。
「……旦那、なにしてんの?」
その瞬間まで、幸村はご機嫌だった。
もう雨の季節も半分過ぎた。今日は朝から晴れの日で、佐助は行ってくるねと出掛けてしまった。きっと慶次と二人でおもしろいことをしているのだ。連れて行ってとねだったのに、佐助はてきとうにしっぽを振って、そのうちね、と言った。佐助はそればっかりだ。お昼には幸村はもうすっかり退屈してしまって、ころころ転がって巣穴から出てしまった。
「うー!」
ひまでござる、と空の色を見てまたころころと戻る。
そうやってころころしているうちに、幸村は転がるのがものすごくうまくなった。今ならきっと石ころよりも速いと思う。しかもかっこいい転がり方まで編み出した。壁の方に足を向けてきゅっと縮まる。そして思い切り壁を蹴って飛び出して、一気に外まで転がった後、ここからが重要だ。
「真田源二郎幸村──見参!」
とうっと思い切り立ち上がる。
「みなぎるァ!」
しっぽはぴんとして、耳も真ん前にぴんとする。
そのまま吼えると、ものすごくかっこいいと思う。
幸村は一日そればかり練習した。
でも、あんまり練習しすぎて巣穴の周りの草がすっかりぺったんこになってしまって、気がついた幸村はちょっとどきどきした。
「く、草殿……」
ぺったんこになってしまった草は、幸村ががんばって鼻先でくんくんしてもぺったんこのままだった。
「お、怒られるでござる……」
佐助は夕方草の上でのんびりするのが好きなのだ。ひんやりして涼しいよと幸村も隣でごろごろする。おなかとか足の後ろとか、昼間遊んでいて汚れたところを佐助がきれいにしてくれて、幸村もちょっと佐助の毛づくろいを手伝ったりする。でもほんとうは佐助のしっぽをかじって遊んでいるだけなのは秘密だ。それにしっぽも好きだけれど、佐助の足の裏をなめたり、首の後ろや耳の横をかじるのもすごく好きだ。
幸村はしましまの前足をつっぱって、ぶるぶるっと震えた。
佐助は、真っ黒だ。
佐助は耳もしっぽも真っ黒で、目だけきらきらして緑色をしている。幸村の家族はみんな同じ黒と金のしま模様なのに、佐助は全部真っ黒でどこにもしま模様がない。佐助も冬になったらしま模様になるのだろうかと思ったら、そんなわけないでしょといやな顔をされた。
「なんと!」
驚いた。佐助は一生真っ黒らしい。しま模様の毛皮は冬ものすごくあたたかいのに、と幸村はしょんぼりした。
「いいでしょ別に。おれさまが白かろうと黒かろうと旦那に迷惑かけるわけじゃないでしょ」
それきり佐助は不機嫌になってしまって、その日は夜まで一日木の上に登って幸村のことに構ってくれなかった。悲しくなって佐助のいる木の根っこをがりがりしてみたけれど、佐助はそこにいたら鳶にみっかって食べられちゃうよと言うだけで、全然降りてきてくれなかった。
「どっか藪の下にでももぐってれば」
「いじわるでござる!」
木の上のくろねこは、緑の目をちょっと細めて、知んない、とつぶやいて幸村に背を向けた。
「さすけえ!」
うわあんと泣いて、幸村はそのまま遊びにも行かずに根っこの隙間に小さくなって一日を過ごした。時々佐助が降りてきてくれるんじゃないかと思って枝の上を見上げて見たけれど、佐助はまるでいないふりで葉っぱの間にいる。おかげで幸村は佐助のことが少しきらいになった。
「旦那」
でも、夕暗がりに日の落ちる頃、おうち帰ろ、と木から音もなく幸村の横に下りて来て、ごめんと鼻をなめてくれた。
「佐助……」
「うん」
なめらかな毛並みが幸村の首筋に触れる。
「帰ろ」
しましまに黒い体をぎゅうっとくっつけて、佐助がしっぽを揺らす。幸村よりずっと長くて、きれいなしっぽだ。
「さすけえ」
そのしっぽを見ていたら、幸村は体中が涙でいっぱいになってしまった。
ごめんて言おうと思った。
佐助にごめんって言おうと思ったのだ。
「ごめんね」
なのに、佐助がそう言ってしまうから、幸村は言い損ねてしまった。
「……一緒に帰るでござる」
泣かないように、やっぱり佐助の背中に顔をぎゅっとして、幸村は佐助にごめんと言えなかった。
くっついたまま、鼻先がひとりでにきゅんきゅんする。体が涙でいっぱいになる。でも、男は泣いてはいけないのだ。泣いたのがみつかったら、幸村は兄にからかわれて恥ずかしいことをされてしまう。
「……旦那、泣いてんの?」
なのに、佐助がそう言うから、幸村は顔をうずめたまま、顔をくしゃくしゃにした。
「泣いてないでござる!」
「……はいはい」
うわあん、と、背中でまんまるになった幸村をしっぽで降ろして、佐助はしょうがないなあと巣穴へ帰った。幸村をくわえた足取りはいつもよりちょっとひょろひょろしていて、幸村は草の先っぽでおしりがくすぐったかった。
「ほら、旦那、見なよ。あじさいきれいだよ」
笹とつつじの茂みを抜けて、佐助と幸村の巣穴が見える。
「おれ、あの色好きなんだ」
巣穴の入り口をきれいな水色が縁取って光る。
「きれいでしょ」
あじさいの水色を見つめて、佐助は目を細める。
きれいな水色のあじさい。
昔、幸村が佐助に拾われる前、佐助はきれいなしろねこと一緒に暮らしていて、あの花は佐助がその子にあげたものなのだ。巣穴の入り口に置いて、毎日大事に水をあげているうちに、根っこが出て大きくなったらしい。水色のきれいな花。やわらかい葉っぱは、しずくをなめると甘くておいしい。
水色の花。
そうだ、このあじさいは佐助のお気に入りなのだ。
「む!」
思いついたでござる、としっぽをぴんとして、幸村はぴょんぴょんとまあるい花へと飛び跳ねた。