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・基本捏造
・サグラダファミリア
・おおきな家族萌え
・と思っていたけれども
・思っていただけだった
・くっ
・どっかの忍さるとびくんを
・さなだの旦那が拾いました
・という話



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 佐助は亡霊の類いを見る質の男であった。

 だからその日も逃げる林の中で見たのを、ああ、またかと思うだけで通り過ごした。

 どこででも見る。

 振り返りもしなかった。

 早く戻れと厳命されていた。

 土の上を跳ぶ。乾いた松葉が滑る。

 低い山を三つ越えて、川に沿ってまた戦場へ戻った。霧と闇が入り用だと言うから、腕と足に傷をつけて、血を流した。

 じきに腹を切られた。背も脚も縦に刃を入れられたのがわかった。

 体から、抜けてくみたいに血が噴き出す。

 もっと、もっと深く、もっと濃く。

 押さえつける男たちの声がぐらぐらと揺れて、上と下とがわからなくなる。喉が渇く。唇を噛んだ。食いしばる。今気を失っては霧も闇もどこへ行っていいものか迷ってしまう。だから、耐えた。がんばった。

 四つ足でいたのが崩れて、肩で土を打つ。額で土を掻く。

「上は」

 上はどこだ。血はまだ流れているのか。まだ流れるか。前触れもなく腹の中のものを吐いた。辛かった。傷口を押さえる手がきつく佐助の血を絞る。悲鳴は音にならずに、腹の中で死んだ。ぼろぼろと涙がこぼれる。

 佐助が、見も知らぬ親から継いだのは、闇を生む血と、それに群がる霧だけだった。

 そんなもの、人の近くには上げられぬと言うから、佐助はいつも屋敷の遠くに置かれて、さみしかった。

 入れて欲しいな、呼んで欲しいな。明かりを見る度に思って、時々は夢にも見た。けれども、見たことのないものを描く夢は、いつも空っぽだった。人のいない家、人のいない町。たくさん人のいる夢は、声がなかった。声のある夢は、姿がなかった。

 目隠しをされたように真っ黒の夢の中、佐助は一生懸命に考えた。楽しいこと、うれしいこと。今ここにあったらと願うもの。びっしりと汗をかいて目覚める度、腕の傷を噛んだ。足の傷を掻きむしった。

 肉の赤から、音もなく闇が湧く。

 望めば、それは少しだけ佐助の言うことを聞いた。

 右へ、左へ。上へ、下へ。

 ほんの少し、ただそれだけ。

 自分たちは外法の忍らしい。

 けれども戦ではそれさえ重宝するらしかった。同じ血の忍が幾人も売られてゆく。帰る者は少なかった。戦忍としてもよい。ただ闇を作るだけのものとして使ってもよい。生きておらねば血の闇は使えぬからと、生きたまま血を絞られる。生きておればいいのだ。

 最初は己で加減せよと言われる。浅く切って、きれいに血を流す。それで済んでいた。大丈夫か、まだいけるかと問われる。頷けば、誉められた。

 食うか、と飯を出されて、傷をかわいそうにと言ってもらえた。おれらのためになあ、と泣いてくれる者すらいた。滋養のつくものをと、甘いものをくれた。うれしかった。

 けれどもそれも、次第次第にただ闇の元になる。

 前も次もない。青も白も通り過ぎて真っ黒の顔をしたのを引き出して、刃を突き立てる。

 滅多刺しだった。

 無限に血のあるわけがない。

 くう、と震える力も失った体が死ぬ。

 男たちは、大抵それにすら、気付かなかった。

 てんでに闇が薄れてゆくのを、なぜだなぜだと男たちが問う。

 悲しかった。

 佐助は、それを見下ろす死人を、よく見た。

 死んでしまった、と悲しそうな顔をしている。半分閉じた目から涙が垂れている。血のなくなった指が黒い色をしていて、ますます彼の顔を悲しませた。

 この前まで、名前を呼んでくれたのになあ。この前まで、やさしくしてくれたのになあ。

 冷たくなった体が打ち捨てられて、男が罵った。足蹴にされた体がやわらかく歪む。

「糞の役にも立たねえなァッ!」

 ふつ、と闇が濃くなった。

 もうじきここは落ちる。本陣の殿様は疾うに逃げたと言うし、ここに残ったのは、自分たちにもやさしくしてくれたような、弱い人たちばかりだった。

 だから、戻ったのにな。

 死んだ忍は、ゆらゆらと自分の体にまとわりつくように揺れている。

 頭が白くなり始めた。早かった息も、さっきからゆっくりと切れ切れに弱まっている。

 もう半分あの世の息を吸っている。

 ばらばらと人の逃げ出す音がする。

「いいか」

 男の声が吠えた。

「おまえたちはここでおれらの後を」

 その先はもう、聞こえなかった。

 逃げるなら、せめて傷をふさいでくれれば、もしかしたら、生きられたかもしれないのに。そんな風に足を縛り付けなくても、自分たちは、もう逃げられない。

 血が足りない。

 死人たちが不安そうに仲間の間を揺れている。

 辺りに煙が満ち始めた。どうやら、自分たちは生きたまま焼かれるらしい。少しでも遠く、一瞬でも早く、あの男たちは逃げるらしい。

「やだ……」

 悲しかった。さみしかった。

 なんで誰か一人でもいいから、一緒に残ってくれなかったの。うそでもいいから、せめて、すまなかった、連れて行ってやれない、すまなかったと、そう言ってほしかった。

 最後に聞いたのは、くそったれ、と彼らの殿様への罵声だった。

「……ばいばい」

 弱く言った声は、誰にも届かなかった。

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