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・「仏の座」「菜花の灰」「あらたま埋み」「寒中紅梅」「潮の雪」
・「夏日行」(併録)に2篇
・「河原にはちす花あれば、」「月光破る、」
・「仏の座」伊達主従と佐助
・「菜花の灰」佐助
・「あらたま埋み」慶次と佐助
・「寒中紅梅」真田主従と伊達主従(蒼紅一騎打ち)(伊達主従側死にネタ注意)
・「潮の雪」佐助とかすが
・「河原にはちす花あれば、」真田主従(死にネタ注意)
・「月光破る、」真田主従
・全体的にサイトの感じなので、殺伐、暗黒、死にネタにご注意ください
・「潮の雪」は佐助がかすが好き
・個人的に割と気に入ってる(感想)
・ご質問等あればゆってください
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己の右目は鉄で出来ている。
それが青く灼ける。
政宗に自身の右肩を見ることはできなかったが、その気配ならわかる。
小十郎が怒っている。竜の右目が怒っている。
恐ろしい、と政宗は笑った。
己はこの鉄を宝とする。
「誰が捕った」
足下に、細い体が一つある。具足を剥かれた忍は政宗の興味を惹かなかった。つまらんな、と思う。散々に叩きのめされてから引き出されたのだろう、腫れ上がった顔がひどく汚れていた。家中は皆、薬だの枷だの面倒なものを使ってやるような性質ではない。単に動けなくなるまで責めたに違いない。ぞんざいに括られたまま、忍は山の獣のように地べたに投げ出されたままでいる。うまくもなさそうだ。
「案外呆気なかったなァ」
つまらん、とまた思った。
本当は虎が欲しかった。
じき冬が来る。もみじ葉に埋もれて、雪に眠る冬が来る。炭を抱いて、煙を吸って眠る。
奥州は春雷で目覚め、稲妻で目を閉じる。雷光と雷鳴。雪の中では何も見えぬ。黙って春を俟つ間、あれを手許に置いて遊べばさぞ楽しかろう。
信濃の火が欲しかった。
「なあ」
どう思う、と問えば、小十郎が鬼のような顔で、政宗様、と唸った。
「繋いだ虎などすぐ死にます」
死骸がほしいのなら戦場で獲ればよろしかろう。
「どうせ討ってしまわれるなら、その方が面白いと思いますがね」
己の右目は鉄で出来ている。火に寄ればすぐに熱くなる。
「おまえにはやらねえぞ」
「お好きに。小十郎は一向構いやしませんが」
睨めつけるような視線に、また小言かと逃げを打って、じゃあ、忍にしよう、と思った。
虎が駄目なら仕方ない。
けれども随分退屈だから、虎の大事を盗ってやろう。
竜の宝は鉄の右目。ならばあの山虎の後生大事の宝は何か。
忍にしよう、と思った。
姿ばかり派手な忍は、戦場でも目立った。主の火を受けて、刃が赤く照り映える。それを振るう度、火の粉の代わりに血が散った。忍の分際で生意気な。そう思って、決めた。
「ゲームだ」
唆せば、皆も退屈に任せて乗った。
「……つまんねえ」
珍しいと聞いた髪の色も、こうして晒してみれば何ほどのこともない。犬猫と同じ、雑な赤だ。それが汚れて垂れている様は、体の細さ以上に、この忍をみすぼらしく見せた。
「つまんねえ」
だるい煙を吐き出した。